ーーどんなに立派なお題目でも、いつか守れなくなる。だったらせめて守れるうちは守りたい
今回は、米澤穂信さんの『本と鍵の季節』をご紹介させていただきたいと思います。米澤穂信さんといえばなんと言っても! デビュー作『氷菓』を初めとする『古典部シリーズ』で一躍有名になられた方ですよね。ほろ苦い青春群像ミステリとして、登場人物たちのキャラ立ちも魅力的で、人気を集め、アニメ化や漫画化、映画かもされましたね。アニメから入った私は、実はめちゃくちゃ世代の人なのです。えるたそ〜!←
で、この『本と鍵の季節』はですね、『古典部シリーズ』同様 青春×ミステリ 物として、やっぱり少し癖のある高校生たちが主人公をつとめる作品になります。具体的にいうと、高校2年生の図書委員である”僕”こと「堀川次郎」と同学年・同委員の「松倉詩門」。物語は常に例外なく、堀川次郎視点で進行します。とはいえ、二人の力関係にはそれほどの差はなくて、堀川くんと松倉くんのダブル主人公(ダブル探偵役)と言ってしまっても嘘ではないと思います。
作品全体は6つの章(短編)で構成されているのですが、どのお話もこの小説のタイトルにもある”本”か”鍵”のどちらか一方か、若しくはその両方が関わってきます。
堀川くんと松倉くん、探偵役というだけあってそれなりに賢い設定です。定期テスト前に特に勉強をしなくても成績上位に食い込めるという。うーん、実際そういう人いましたよねー。かと言って二人はそれを鼻にかけているわけでもないので、なんとなく馴染みやすいと言うか。二人の他愛のない会話もかわいくって、普段、男子高校生ってこんな会話してるのかなぁとか想像(妄想)しながら楽しんでいた自分。
(パセリコーラと紅緑茶オレ飲んでみたいな。。)
二人はそれなりにお互いを信頼していたり、なかなかに熱い友情関係にあるような描写を見せるのですが、時折みせるアイロニカルな部分が物語の良いスパイスとなっていて、それが後に引くような文学性にもつながっていたり、決してキラキラした青春模様だけでは終わらせないぞという作者の意図がひしひしと伝わってきたり。
依頼人(とは言っても同じ高校の生徒だけど)が持ち込む”謎”に対する二人のスタンス、依頼を受けるかどうかを決める際の姿勢も、依頼を受けた後の姿勢もどこか異なっていて、かみ合いを見せたり見せなかったり。二人が同じ場所にいても、まるで対旋律のように近づいたり離れたりする二人の推理(思考)ルートが存在するため、そこが単独探偵のシャーロックホームズシリーズや明智小五郎シリーズにはない楽しさでもあるのです。
この二人のスタンスの違いは、すなわち二人の性根の違いからくるものなのでしょうか。堀川くんは”性善説”を、松倉くんは”性悪説”を基本スタンスとする行動を見せているようです。もちろん米澤穂信さんの手腕で、ステレオタイプな見せ方ではなくて、人間的なブレもそこには存在します。
ときに衝突を見せたり、アイロニカルでビターな場面を見せたり。その根底に潜む、そういったキャラクターの部分もこの作品の見どころの一つですね。
ライトに見えて案外ビターな青春ミステリ作品『本と鍵の季節』。続編である『栞と嘘の季節』と一緒にぜひぜひ楽しんでみてくださいね⭐︎
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