【書評】彼岸花が咲く島/李琴峰/文藝春秋ーーこれぞ、ファンタジー純文学の真骨頂!

彼岸花が咲く島の書影書評
※書影は版元ドットコム様より
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ーー動くは駄目ラ! ビアンバナー、薬効発揮したロー

 今回ご紹介させていただく作品は、李琴峰りことみ・著の『彼岸花が咲く島』になります。この作品は石沢麻依さんの『貝に続く場所にて』と共に、”第165回芥川賞受賞作”に選ばれました。

【書評】貝に続く場所にて/石沢麻依/講談社ーーそれはまるで、犠牲者の方々への鎮魂歌のような
ーー痛みそのものの記憶自体は、いつまでたっても鮮やかなもの。それは変わらないんだよ。人であろうと場所であろうとも  石沢麻依・著『貝に続く場所にて』という作品は、李琴峰・著『彼岸花の咲く島』と合わせて”第165回芥川賞”に受賞された作品に...

 李琴峰さんというのはですね、台湾出身の方でありながら日中バイリンガルとして、日本語での小説執筆活動をされている方なのです。日本で活動されている台湾人作家さんとしては、他にも温又柔さんや東山彰良さんなどがあげられますが、ネイティブな環境で日本語を身につけたわけではないという点で、彼女はそのお二方とは境遇を異にしています。
 彼女は、中学生の頃に芽生えた日本語への探究心をきっかけに、はじめはアニメ・ドラマを通じて語彙を頭へと叩きこんだそうです。そして、高校生になると日本語学校でさらに学習を進め、それからそれから、さらなる境地を求めて日本の文学の世界に足を踏み入れていったそう。日本語愛に満ち溢れた方なのです!スゴイ
 日本文化圏の人間に、外国人だった人が日本語で緻密な表現を与えるのって、どれだけ難しいことなのでしょうね。。とうてい計り知ることもできません。でも、そういう立場だからこその表現というのもあって、そこに斬新さなりの面白みを見出すこともできそうですよね。

 この作品では、作者のそういった日本語を一から学んできたという経験が、物語の中に反映されている、そんな気がするんです。早い話、作中では主に3種類の言語が登場します。軽くご紹介しますね。

  • ひのもとことば……彼岸花の咲くとある<島>に打ち上げられたヒロインの少女が最初に身につけていた言語。ひらがなのみで構成されているけど、現実世界で私達が使う”日本語”に似ている部分が多いです。
  • ニホン語……本記事冒頭にあるような、なんとなく意味は取れそうで取れなそうで取れる、たぶん中国語のエッセンスを含む言語。けっこうよく目にする「大家(みんな)」や「加油(頑張れ)」などの単語も登場します。本作では、<島>の中での共通言語的な役割を担っています。ちなみに、「動くは駄目ラ! ビアンバナー、薬効発揮したロー」は多分「動いたらダメよ! 彼岸花の薬効が出てきたようね」だよね?
  • 女語……この言語が一番、現代の私達の使う”日本語”に近いかも。漢字もほどほどに使用されます。島民は「ひのもとことばは女語に近い」と感じているようです。この言語は、島民でもある一部の人しか使ってはいけません。

 ヒロインの少女は、打ち上げられた海岸で<島>の少女・游娜よなに出会います。そこで游娜が頻繁にくりだす言葉がニホン語なので、ヒロインの少女ははじめはすごく戸惑いを覚えてしまいます。ですが、游娜と一緒に<島>の風習や慣しに触れながら、新たな島民との出会いを通じながら、だんだんとその身に馴染ませていくのです。
 序盤はヒロインの少女が島での生活を通して、島民の温かみを感じたり、游娜との友情を深め合ったりと、和やかなストーリーが展開されていきます。あ、でも読者にしてみれば、たびたび登場するパッと見意味の取りにくい言葉とか、<島>独自の風習や慣し・文化・歴史の情報はとても緻密に描かれていて真新しいものでもあるので、けっこう注意深く読まないと物語に置いていかれてしまうような気もします笑
 そういう意味では、ヒロインの子と同じように、だんだんと<島>や言語に慣れ親しんでいくという感覚を味わえるので、とても楽しい部分でもあります。

 さてさて、芥川賞作品がそんなほんわかストーリーのみで終わるはずもありません。物語のキーワードは、島民から<楽園>と呼ばれている”ニライカナイ”という島と、<島>の歴史を担う者である”ノロ”という存在です。
 この<島>には、どういう経緯をもって「ニホン語」と「女語」が存在しているのでしょう。また、「ひのもとことば」との関係は? この<島>に潜む驚愕の歴史に、あなたはきっと衝撃を受けること間違いなしです!
 純文学とは言っても、ミステリ要素の高いファンタジー作品みたいな感じになっています。そこに隠れる芸術性やメッセージ性を感じ取りながらぜひとも楽しんでいただきたいです。ではでは⭐︎

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