【書評】光媒の花/道尾秀介/集英社文庫ーー文芸の極地に至った、温かく美しいミステリ作品

光媒の花の書影書評
※書影は版元ドットコム様より
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ーー光ったり翳ったりしながら動いているこの世界を、わたしもあの蝶のように、高い場所から見てみたい気がした。

 今回ご紹介させていただく作品は、道尾秀介・著『光媒の花』になります。
 道尾秀介さんと言ったらやっぱり、ホラーサスペンスや謎解きミステリのイメージの強い作家さんだと思うのです。

 ただ、この『光媒の花』はですね、道尾秀介さんが極めて純粋に文芸の糸を手繰り寄せて紡いでいくような姿が、読んでいる最中に文章の向こう側に浮かび上がってくるような、そんな作品に感じました。
 一文一文がとても繊細で、小さな光の塊が、文章にぽたっと落ちては波紋を描くように広がっていくような、ささやかで重みのある感覚が、私の中で、終始響き渡っていたのです。。
 私はそんなところに、純文学を感じました。

 道尾秀介さんは自身の手掛ける作品ジャンルに、ミステリや純文学などの枠組みはいっさい設けていないそう。
 ただ、高校生時代にお付き合いされていた彼女さんが純文学マニアで、そのときから太宰治と川端康成に惹かれ、ひたすら読みあさっていたというエピソードがあるそうです。
 もしかすると、その辺りで培われた純文学的な素養が『光媒の花』に現れたのやもしれません。ウンウン

 この作品は”第23回山本周五郎賞”の受賞作になります。山本周五郎賞と言えば、今では直木賞に準ずる、大衆文学作品に授与される賞として名高いものになります。
 6つの短編から構成されるこの作品。各章の脇役が次の章での主人公になっているというように、微細な繋がりをもちながら展開されていきます。
 ミステリ感を漂わせながら、最終的に読者の心をとある方向へと導いていくみたいなそんな作風なので、大衆文学としても十分に楽しめる作品です。

 短編それぞれで描かれている内容は、決して幸福なものではないかもしれません。特に前半部は読んでいてもとても苦しい内容でした。。
 人間のもつ憤りや苦しみ、儚さややるせなさに満ち溢れていて。でも、そこへひとひらの光が舞い降りるのです。ひらり ひらりと。
 この憤りや翳りと、喜びや希望との対比がとても美しく描かれていて、エンタテイメントを超えたところにこの作品の核心が置かれているのだと、私は感じました。
 文章の美しさと物語の美しさ。それらが相まって、最後には作品全体が眩い温かみに包みこまれていくような高揚感がパッと咲き渡ります。これぞ文芸の極地なのです。。

 私はこれまでにこれほど美しい作品には出会ったことがないやもしれません。
 まるで明治から昭和にかけて残された古典純文学のような色合いも持っていて、そこへ道尾秀介さんとしてのスパイスが振りまかれているようなイメージでしょうか?
 ネオ純文学的な……?←

 山本周五郎賞受賞作ということで、それほど”隠れた”名作感はないけれど、でも他の道尾秀介さんの作品と比べると、どうも認知度は低いように感じます。。
 「道尾秀介おすすめランキング」などを拝見しても、あんまりこの作品に出会えないんですよね。やはり時代が求めているのは、もう少し激しい感じのどんでん返しミステリなのかなー?
 私はこういう今と昔を繋ぐような作品もけっこう好きですよ。
 道尾秀介さんの別なる顔を知れるとても良い作品だと思います。
 まだ読んでいない方、気になった方はぜひぜひ。
 それでは、最後までお読みいただき、ありがとうございました<(_ _*)> 

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