【書評】滔々と紅/志坂圭/ディスカバー文庫ーー吉原の女版・半沢直樹?!

書評
※書影は版元ドットコム様より
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ーー花魁の血は煮えたぎっておりんす。返り血を浴びて火傷なさいませんようお気をつけくんなまし。

 今回ご紹介させていただく作品は、志坂圭・著の『滔々と紅』です。あ、間違えました。『滔々と紅』でありんす。関東東北から売られてきた娘たちの故郷の方言を隠すため、また吉原での格式を統一するために、娘たちは初めにこの”ありんす”調を身につけさせられたそうです。

 ”第1回本のサナギ賞大賞”を受賞されたこちらの作品。天保の大飢饉の最中、東北の村から吉原へ売られてきた少女の生涯が描かれています。
 私は最初吉原舞台だと分かったとき、ドロドロとした女社会を思い浮かべました。大奥舞台の作品の多くに見られるような? そう、嫉妬・嫌味・根回しの三拍子がそろったやつです。。

 私、そういう社会での立ち回りとか上手くない人なので、学生時代は教室では一人で本読んで物語にふけっている時間が長かった気がします。ぜんぜん、寂しくなかったです。ぜんぜん。。

 案外『滔々と紅』では、そういったドロドロな描写は少なく、基本はみんな割とフレンドリーな感じで、たぶんあえてなのかな? どうやら物語の主題をそういうところへは置いていないようです。
 でも女郎(吉原で働く現役の娘たち)が何かやらかしたとき(足抜けしたときや、お客様の歯を蹴り折ったときとか笑)の折檻や、食べ物を盗んだ盗んでないなどのいがみ合いみたいな描写は一応あったりはして、、うーん、痛々しかった……。

 この作品は、吉原という鳥籠の中で、本作のヒロインである駒乃という人間が何を目にしどう戦い抜くのかというその一点で描かれています。
 世界観も時代背景もぜんぜん違うのですが、『約束のネバーランド』とか『半沢直樹』みたいな、そんなイメージが私の頭には浮かびました。あくまでもイメージですよ。

 吉原の”扇屋”なる大見世(←お店の規模により、大見世・中見世・小見世とあったそうです)に売られた駒乃。
 吉原は忍び返しのある高い板塀に囲まれ、吉原への出入は主に大門。大門には常に見張りがいます。特に女性の出入は厳格に監視されていて、女郎が抜け出すことは原則できません。
 万一抜け出したりすると「足抜け」と言って追われる立場となり、捕まれば最悪死にいたるほどの折檻を受けることとなります。
 楼主からは物扱いをされ刃向かえば折檻。華やかな着物や髪飾りをまとった花魁でさえも、現実は右も左も地獄なのです。なので、吉原は苦界とも呼ばれています。

 駒乃はですね、小さな頃からけっこう頑固な一面を見せます。初めは子供ならではのわがままもあるのかなあとか思っていたんですけど、飢饉から生き延びた強さというか、どうやら母親ゆずりの気性というか、すごく肝の据わった強い娘なのです。
 吉原のしきたりと駒乃の気性がぶつかり合えば、何も起こらないはずもありません。

 私、がっつりと吉原が舞台になっている作品を読むのは実はこれが初めてでした。この作品は、文章の中で非常に良いタイミングで用語の説明などを挟んでくれているので「あれっ?これどういう意味かな?」と思うこともほとんどなく、スラスラと読み進めることができました。
 なので、日本のひとつの歴史としての”吉原”を知るには、とても良い作品だと思います。こんな世界があったのかと、とても苦しく感じる描写もあるけれど、一人の人間の生涯が描かれているというのは読み応えもあるし、もちろん喜びの描写だってあるのです。ちなみに私はところどころ、すすり泣きながら読んでいましたよ。。
 ではでは、最後までお読みいただき、ありがとうございました♪

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