【書評】流浪の月/凪良ゆう/創元文芸文庫ーー絶望の果てで得た想いとは? 希望とは?

書評
※書影は版元ドットコム様より
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ーーわたしたちの間には、言葉にできるようなわかりやすいつながりはなく、なににも守られておらず、それぞれひとりで、けれどそれが互いをとても近く感じさせている。

 みなさんは、月の裏側って見たことはありますか? 普段、私たちが地球から見上げる月は常に、月の表側と言われている部分を見せています。。ウサギが餅つきをしている模様のある部分ですね。
 なぜそんなことが起こるのか(裏側が見えないのか)というと、月が私たちに見せている表側半分の大きさ(重さ)のほうが、裏側半分の大きさ(重さ)よりも大きいため、重力の関係で、重たい表側のほうが地球と向き合う形となるからなのです。
 木に実った洋梨の、ぷっくりと膨らんだほうが地面に向いているのと同じですね。

 月の裏側はどのようになっているのでしょうか。実は、表側で見られる数の比ではないくらいのクレーターに覆われています。表面はとてもゴツゴツしていて、それとなく不気味な感じ……。地球からは見えないところで幾度となく隕石を受け止めて、そうなってしまったのでした。。

 私たちはいつも、綺麗な月ばかりを見ています。十五夜のお月見なんてとても風情に満ちていますし、日本の文学史上では、月というのは愛の表現に使われていたりもするそう。月は、私たち日本人にとっても、たぶん世界中の人々にとっても、その情緒を彩るものとしての大切な役割を秘めているのです。

 さて、今回ご紹介させていただく作品は、凪良ゆう・著『流浪の月』になります。本屋大賞を獲得された作品とだけあって、もう凄すぎて、勢い余って映画館にまで足を運んでしまいました。!

 私は凪良ゆうさんの作品でいうと『美しい彼』はこれまでに読んだことがありました。これもめちゃ衝撃的だったのですが、『流浪の月』のほうが私の趣味にはあっていたかも。

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 他人の裏側って、目を凝らして見てもなかなかわかりません。だから、その人のことを自分の見たいように見てしまっているかもしれない。。
 中途半端に理解したつもりで他人に向ける優しさは、ときとして凶器にも狂気にもなり得えます。
 このお話は、そんな凶器と狂気にさらされた絶望の極地の中で見つけ出す想いと、ほんの小さな希望を描いたもの。
 そんな印象を、私は受けました。文章の質も極めて高く、現実性と抽象性がうまく絡み合った、純文学作品だと思います。

 物語の主人公は佐伯文さえきふみ。ヒロインは家内更紗かないさらさ。二人は15年前に起きた女児誘拐事件の犯人(当時19歳)と被害者(当時9歳)です。
 事件から15年経った現在、二人にはそれぞれに恋人もいて、それぞれの日常を過ごしていました。でも、その生活の中で二人は日々、絶対的な違和感にさらされているのです。

 少年院で罪を償った文にも、事件被害者としてのレッテルがつきまとう更紗にも、世間の向ける目はすごく厳しくてすごく優しくて不安定で、、どんどん どんどん歯車は崩壊していきます。。
 世間がおかしいのか、彼らがおかしいのか、ひしめき合う感情の衝突と封じられた真実。それでも日常は過ぎていく。人間て難しくて、それでいて美しいんです。。

 私、佐伯文のキャラクターがとても好きでした。物静かで、正直何考えているのかわからないし、翳りの絶えない雰囲気だけれど、発する言葉と仕草は一つ一つ、ずっと優しいんです。
 事件から15年後の場面では隠れ家的な珈琲店を営んでいたりもして、素敵だなとも思いました。

 更紗はまず名前がかわいい。ファミレスで働きながら恋人と同棲生活をしています。順風満帆にも見える二人だけれど、更紗にはある想いが芽生え始めます。。

 事件の加害者と被害者という関係である文と更紗が、いったいどんな風な関わりを持ちどんな結末を迎えるのか、、ホントに手に汗握る展開でした、、!

 あ、映画も観てきたのでその感想も。
 控えめに言って超最高でした! もちろん原作でのシーンをがっつり省略していたり、結末もあっさりした仕上がりになっていたり、変更点は多々あります。
 もしかしたら、小説を読んでから映画を見たほうがいいのかなとも思いました。

 話の運びはおおかた原作にそったもので、原作そのままの重要な台詞回しにも度々直面したりして嬉しかったり。
 でも何よりも、やっぱり映像なんですよ! 極力無駄な情報を抑えて、映像の色彩のトーンや行間をもって登場人物たちの心を表現している感じです。映像で魅せるというのはやっぱり映画ならではの強み。
 小説での前情報があれば、ダブルで存分に楽しめる作りとなっています。

 そして、文役の松坂桃李さん、カッコ良すぎた♡ 文の役ってこの人しかできないんじゃないかなってくらいの迫真の演技に常、心が震えました。
 広瀬すずちゃんは私よりは年下なのですが、もうすっかり大人の女優さんです。更紗の役柄って、文にも負けず劣らずの難解さだったと思うんです。それでもメインキャストとして、鬼気迫るものを見せてくださいました。

 機会があれば小説と映画、ぜひぜひ味わってみてくださいね⭐︎

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