【書評】ののはな通信/三浦しをん/角川書店ーー単なる百合小説? いいえ、哲学書です。

書評
※書影は版元ドットコム様より
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ーー誇りを奪われ、苦しむ人々をまえにし、はなは自身の誇りをかけて動かずにはいられなかった。その際、あなたの潔癖さが、あなたの持つすべてものを捨てさせたのでしょう。

 今回ご紹介させていただく作品は、三浦しをん・著『ののはな通信』になります。
 表紙がとても可愛いという理由だけで手に取ってみたのですが、、笑 なんと序盤では、とても濃厚な百合展開がつづきます! とはいえ百合は小テーマの一つにすぎず、大枠で描かれるのは、少女たちが大人になるまでの成長模様と彼女たちの芯を彩る哲学なのです。

 この作品、構成がなかなかに斬新でして、終始描かれるのは、野々原茜と牧田はなという二人の主人公たちが交わす手紙、授業中のメッセージメモ、メールの内容のみ!
 つまりは、小説世界でのリアルタイムな描写などはなくて、手紙の中で「あのとき○○だったよね。だから私はこう考えてこうしたんだ」みたいに、彼女たちの身の回りで起こった出来事が事後的に語られる形式となっています。

 ちなみに、二人はお互いを”のの”と”はな”と呼び合っているので『ののはな通信』なのです。

 一章は二人の高校時代。二章が大学時代。三章と四章が社会人・中年時代。昭和59年(1984年)から平成23年(2011年)までの間に交わされた手紙やメール、、考えただけでも膨大な量ですよね笑 現に単行本448ページ分すべてが二人の手紙です。。ヤバイ

 二人の通う高校は「聖フランチェスカ」というミッション系のお嬢様学校です。場所は横浜とのことなので元ネタは「フェリス女学院」なのかな? ああ、憧れてしまいます。。

 野々原茜は家庭がそれほど裕福ではないけれど、学校での成績はとても優秀。多感なお年頃でありながらも言動は常理性的な子。理性的であるが故に、自身の我を通して側から見たらとんでもないことをやっていることもあるのだけど笑

 牧田はなは父親が東大出身の外交官という、theお嬢様。自分は頭が悪いと言っているけれど、二章を読む限りだとそれなりに良い大学へと進学している模様です。野々原茜と比べると少しおてんばなところがあります。

 二人の高校時代でのやり取りは、とても血気盛んというか感受性豊かというか、、百合全開でそのピークを迎えるのも、この高校時代の一章になります。
 同級生のことや、問題のある教師とのこと、家族のこと、学校全体のこと、そしてお互いへの恋愛感情。それらが目まぐるしく揺れ動く日常風景はジェットコースターの如し! それらが二人の文通の中で見事に甘酸っぱ〜く綴られていくのです。グワングワンとね、心を揺さぶられました。

 一応青春ではあるのだけど、お嬢様ならではの気品やプライドが色こく出ていて、根底に潜む気高さは今後の展開にも大きく影響してくるのですが、一章の段階ではまだまだ少女要素も強め。。

 その後、二章→三章と進むに連れて、二人が綴る手紙の文体も徐々に変化していきます。読者として得られる情報の質もとても重たいものになっていくんです。
 具体的には、初めは身の回りの日常のことへ向けられていた目線が、だんだんと人間の持つ普遍的なもの、愛や信仰、世界情勢、人生観などへ変遷していく感じです。
 大人になるにつれて彼女たちの見える世界が広がっていく、その感じがとても上手に表現されているなぁと思いました。

 ただ、二人の性根にあるものは一貫していて、クライマックスと結末を左右するものとして顕著に現れはじめます。
 最後はとても感動的で考えさせられるもの。。だけれどハッピーエンドやバッドエンドみたくはっきりしたものではなくて、読んでいる人によって感じ方はまちまちなのかもしれません。
 私はどちらかと言えばハッピーエンドのように感じたかなぁ。。

 単なる百合小説だと思って読んでいたら、まるで哲学書のような重厚感を持つ内容でした。そんな読後感・印象を受けました。
 こういう形式で描かれる作品って、私が知る限りではあまりないのですごく新鮮な気持ちで読み進めることができました。ちょっぴり奇抜で考えさせられる作品を読んでみたいなって方、ぜひぜひ手にとってみてくださいね⭐︎

 

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