【書評】ラブカは静かに弓を持つ/安壇美緒/集英社ーー潜入先は、音楽教室?!

書評
※書影は版元ドットコム様より
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ーー相手はCIAでもKGBでも反社会的組織でもない。町の音楽教室だ。

 今回ご紹介させていただく作品は、安壇美緒あだんみお・著『ラブカは静かに弓を持つ』になります。「王様のブランチ」のブックコーナーの特集にて紹介されておりました。
 テーマはまさかの”スパイもの”とのことで、2022年5月現在、遠藤達哉さんの『SPY×FAMILY』にどハマりしている私は「スパイ」という言葉に見事に惹かれてしまったのでした笑←単純

 主人公・橘樹たちばないつきが勤めるは、全日本音楽著作権連盟(以下、全著蓮)になります。私たちの世界でいうJASRAC(日本音楽著作権協会)のような企業ですね。
 著作権法に代表される第22条の条文には、「著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。」と書かれています。
 全著蓮は作詞者・作曲者・音楽出版社などと著作権信託契約を締結し、上記の条文内容を中心とする著作者の権利を守護する役割を、一手に引き受けているわけなのです。

 この物語では、全著蓮が音楽教室をターゲットに提示した「レッスンでの演奏からも著作権使用料の徴収を開始する」という主張を発端に、企業同士の殴り合いと、一人の孤独な社員・橘の成長模様がなだらかに綴られていきます。
 上記の主張を退けんがために結成された「音楽教室の会」のリーダー的存在が”ミカサ”という大企業。楽器や音響機器の製造販売事業を運営している会社で、私たちの世界でのヤマハ的なところです。。

🔥全著蓮 vs ミカサ🔥

 演奏会やコンサートで演奏する楽曲に著作権使用料が発生するのはわかるんですけど、音楽教室のレッスンで、講師と生徒との間で交わされる演奏にまでそれが発生するっていうのはどうなのでしょう?
 ここでは、講師がお手本として演奏を見せる・聴かせることが”公に”演奏することに当たるのかというところが、事の争点となります。
 この争点の鍵となるのが、著作物の利用主体が誰になるのかというところなのですが、、
 利用主体が”講師”であって、聴かせる相手が”生徒”ならば、とても”公に”演奏しているとは言えませんよね。生徒は練習をしに来ているだけで、演奏を聴きに来ているわけではないので。
 でも全著蓮は、利用主体は”音楽教室”にあるとして、音楽教室は営利目的で著作物を利用しているのだと主張します。。
 どちらにも理があるようにも思えます。。さてさて、この争いの結末は……? ここまでが、この物語の主なバックグラウンドになります。

 橘は、子供の頃にチェロを習っていたという経歴を上司に買われ、ミカサ音楽教室への潜入捜査を命じられます。上級クラスでの練習模様をボールペン型録音機で録音し、調査報告書と共に提出するというスパイ活動です!キター
 潜入期間2年間の中で証拠を揃え、その後に裁判での証人尋問を受けるという定めを負った橘が、その苦難と葛藤をどう乗り越えていくのかというのが物語の主軸となります。。

 私はこの作品を読んでいる最中は、ずっと重苦しい気持ちでいっぱいでした。。だって、橘は2年間音楽を共有し合った人たちを裏切る定めを与えられているんです。講師だけじゃなくて、そこで出会ったレッスン仲間をも。。
 私ならぜったいできませんね。そんな潜入捜査。私も吹奏楽をやっていたので、音楽はもっと楽しいものでないとと思うのです。それが例え著作者を守ることに繋がるのだとしても、そんなのはあんまりです。
 そんな気持ちを橘に重ねてみると、この物語全体がやっぱり重苦しくて、、まるでラブカの生息する深海にでもいるかのような。。

 果たして、最後に橘の身に待ち受けていることとは?!
 なかなかのスリル感垣間見れるスパイ劇だと感じました。あと知っているようであんまり知らなかった著作権法の核みたいなものも勉強できたので読んでよかったなと思いました。
 気になった方はぜひぜひ手にとってみてくださいね⭐︎

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