【書評】がらくた屋と月の夜話/谷瑞恵/幻冬舎文庫ーー人と物との、不思議で大切なめぐり合わせ

書評
※書影は版元ドットコム様より
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ーー月の明るい夜は、これらが語り出す。

 今回ご紹介させていただく作品は、谷瑞恵・著『がらくた屋と月の夜話』になります。谷瑞恵さんと言えば、2000年代初めから実に多くのライトノベル作品を手掛けられている方でして。『思い出のとき修理します』シリーズはコミカライズもされ、一躍話題作ともなりました。

 谷瑞恵さんは、2014年くらいから一般文芸作品の執筆にも力を注いでおられるようでして、こちらの作品はその中のひとつという位置づけになります。

 『がらくた屋と月の夜話』というタイトル、私好きです。。「がらくた」と「月の夜話」のほのかなミスマッチ具合がどこか不思議な感覚を引き立たせてくれる様な。作品を読み終えた今でも、別の意味でとても気に入っています。
 表紙のイラストも、私は文庫本しか持っていないんですけど、単行本のものもレトロモダンな感じでとても素敵なんですよね♪

 物語の雰囲気は、ファンタジーというほどではないけれどどこか非日常な感じ。SF(すこし ふしぎ)というべきでしょうか。谷瑞恵さんならではの優しく流れるような文体で描かれる日常と非日常との揺れ動き、、とても良き。

 月の夜、児童公園にトランクを携えて現れる不思議なおじいさん(河嶋さん)と、20代後半の自称ついてないOL(つき子:本作の主人公)との出会いが物語の発端となります。
 トランクの中身は”壊れた秤”や”片方だけの手袋”、”レースの切れ端”などの「え、何使うの?」というものばかり。トランクを開け放ち、道ゆく人に見せびらかすようにする河嶋さんに、つき子ははじめ驚きを見せます。しかし、ひょんなことからお手伝いのようなことをするはめに?笑 そして河嶋さんの家にも自ら通うようにもなります。

 ミニマリストさん的には、使い古したものや使い物にならないもの、もっと言えば使う必要のないものなんかもすべて捨ててしまうのがセオリーなのでしょうか。私もどちらかと言うとあまりムダなものは買わないようにしている人です。
 特に最近は、かわいい雑貨や服も食器も購入は控えめになってきてるような。ムダな物がないスッキリとした空間はどこか落ちつくし心も安らぎます。あと掃除も楽!

 逆に考えると、物というのは多くの刺激を持っているとも言えますよね。神道では古くから「万物には魂・神様が宿る」と伝えられています。私もそんな気がします!←ホントカヨッ
 人からのプレゼントや手紙とか特に思い入れの深いものについては魂とは言わずとも、贈ってくださった方の思いが込められているはずです。そういうもの、温かい刺激に満ちたものは、やっぱりいつまでも手元に置いておきたいなって思います。

 どんな物でも、作られてから使われ、身を削りガラクタのようになるまでの間に、様々な経緯を踏んで、パッと見では想像し得ないような歴史や物語を含むようになるのかもしれません。一人の人間が様々な物語を持っているのと同じように。

 作中で、河嶋さんはなんのためにガラクタを売っているのでしょうか。そもそも売れる物なのでしょうか。人は、その物が必要だと思うから買うのです。必要だと考える理由こそが、この物語の大きな鍵であり要なのです。

 この作品では「私はメヘレンという町で生まれたレースです。ーー」のように続く、物に宿る物語パートがたびたび登場します。物の視点から描かれる世界観、谷瑞恵さんはこういうのを描かせたらピカイチなのです! ここまで描ける想像力は本当に圧巻で、そしてどれも心に染み渡るのです。

 つき子が序盤で落とした「指輪」も、作中ではいろいろな意味で変遷をとげていきます。『ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)』ではないですけど、あるひとつの物がいろいろな意味合いを持ちながら関わった人たちに影響を与えていくという描写、これも見どころですよ。終盤ではハッとさせられるやも?

 つき子やその親友の成美、高校教師の天地、その生徒である梨香などの主な登場人物たちについての短編のような感じにもなっていて、意外とサクッと読めるのもおすすめポイントです。
 そして、高校教師の天地くん、少しSっ気があってめちゃかっこいい← 天地くんとつき子との関係性の変化の部分もご期待あれ♡

 それと、石沢麻依・著『貝に続く場所にて』という作品。作風もテーマも全く異なるのですが、物の記憶や歴史をテーマに綴られた作品としてこちらもおすすめしておきますね⭐︎

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ーー月の明るい夜は、これらが語り出す。

 今回ご紹介させていただく作品は、谷瑞恵・著『がらくた屋と月の夜話』になります。谷瑞恵さんと言えば、2000年代初めから実に多くのライトノベル作品を手掛けられている方でして。『思い出のとき修理します』シリーズはコミカライズもされ、一躍話題作ともなりました。

 谷瑞恵さんは、2014年くらいから一般文芸作品の執筆にも力を注いでおられるようでして、こちらの作品はその中のひとつという位置づけになります。

 『がらくた屋と月の夜話』というタイトル、私好きです。。「がらくた」と「月の夜話」のほのかなミスマッチ具合がどこか不思議な感覚を引き立たせてくれる様な。作品を読み終えた今でも、別の意味でとても気に入っています。
 表紙のイラストも、私は文庫本しか持っていないんですけど、単行本のものもレトロモダンな感じでとても素敵なんですよね♪

 物語の雰囲気は、ファンタジーというほどではないけれどどこか非日常な感じ。SF(すこし ふしぎ)というべきでしょうか。谷瑞恵さんならではの優しく流れるような文体で描かれる日常と非日常との揺れ動き、、とても良き。

 月の夜、児童公園にトランクを携えて現れる不思議なおじいさん(河嶋さん)と、20代後半の自称ついてないOL(つき子:本作の主人公)との出会いが物語の発端となります。
 トランクの中身は”壊れた秤”や”片方だけの手袋”、”レースの切れ端”などの「え、何使うの?」というものばかり。トランクを開け放ち、道ゆく人に見せびらかすようにする河嶋さんに、つき子ははじめ驚きを見せます。しかし、ひょんなことからお手伝いのようなことをするはめに?笑 そして河嶋さんの家にも自ら通うようにもなります。

 ミニマリストさん的には、使い古したものや使い物にならないもの、もっと言えば使う必要のないものなんかもすべて捨ててしまうのがセオリーなのでしょうか。私もどちらかと言うとあまりムダなものは買わないようにしている人です。
 特に最近は、かわいい雑貨や服も食器も購入は控えめになってきてるような。ムダな物がないスッキリとした空間はどこか落ちつくし心も安らぎます。あと掃除も楽!

 逆に考えると、物というのは多くの刺激を持っているとも言えますよね。神道では古くから「万物には魂・神様が宿る」と伝えられています。私もそんな気がします!←ホントカヨッ
 人からのプレゼントや手紙とか特に思い入れの深いものについては魂とは言わずとも、贈ってくださった方の思いが込められているはずです。そういうもの、温かい刺激に満ちたものは、やっぱりいつまでも手元に置いておきたいなって思います。

 どんな物でも、作られてから使われ、身を削りガラクタのようになるまでの間に、様々な経緯を踏んで、パッと見では想像し得ないような歴史や物語を含むようになるのかもしれません。一人の人間が様々な物語を持っているのと同じように。

 作中で、河嶋さんはなんのためにガラクタを売っているのでしょうか。そもそも売れる物なのでしょうか。人は、その物が必要だと思うから買うのです。必要だと考える理由こそが、この物語の大きな鍵であり要なのです。

 この作品では「私はメヘレンという町で生まれたレースです。ーー」のように続く、物に宿る物語パートがたびたび登場します。物の視点から描かれる世界観、谷瑞恵さんはこういうのを描かせたらピカイチなのです! ここまで描ける想像力は本当に圧巻で、そしてどれも心に染み渡るのです。

 つき子が序盤で落とした「指輪」も、作中ではいろいろな意味で変遷をとげていきます。『ロード・オブ・ザ・リング(指輪物語)』ではないですけど、あるひとつの物がいろいろな意味合いを持ちながら関わった人たちに影響を与えていくという描写、これも見どころですよ。終盤ではハッとさせられるやも?

 つき子やその親友の成美、高校教師の天地、その生徒である梨香などの主な登場人物たちについての短編のような感じにもなっていて、意外とサクッと読めるのもおすすめポイントです。
 そして、高校教師の天地くん、少しSっ気があってめちゃかっこいい← 天地くんとつき子との関係性の変化の部分もご期待あれ♡

 それと、石沢麻依・著『貝に続く場所にて』という作品。作風もテーマも全く異なるのですが、物の記憶や歴史をテーマに綴られた作品としてこちらもおすすめしておきますね⭐︎

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