ーー彼と仲間たちは誓った。子猫のために一口のミルクも手に入らない、そんなことがもう二度と無いようにしよう、と。神様はこの世にいないかも知れないけれど、自分たちがこの手で、夢を叶えよう。
今回ご紹介させていただく作品は、村山早紀・著『百貨の魔法』になります。
この作品は、同じく村山早紀さんの著書『桜風堂ものがたり』の物語展開に深い関わりを見せる、”星野百貨店”を舞台としています。
(『桜風堂ものがたり』の一つの舞台・銀河堂書店は星野百貨店の古くからのテナントなのです)

『百貨の魔法』を読んでいて、銀河堂書店の名前や、『桜風堂ものがたり』との共通の登場人物が出てくるたびに、ほんのりとこみ上げる嬉しさ♪
『桜風堂ものがたり』で垣間見えた星野百貨店の温かい真心の所以も、『百貨の魔法』にてしっかりと綴られているので、両方を読むことで物語の深みが増すようにも思います。
ところで、『百貨の魔法』と『桜風堂ものがたり』には、作風自体に大きな違いもあります。
それは『桜風堂ものがたり』では比較的、現実に起こり得そうな”小さな奇跡”の連続を描いているのに対して、『百貨の魔法』ではファンタジー要素が随所に落とし込まれていて、おとぎ話や童話と似たような雰囲気も堪能できてしまうところ。。
例えば星野百貨店で古くから存在する、”左右に金目と銀目を持つ、魔法を使う白い子猫”の言い伝え。それが物語の進行と共に、だんだんと色味を帯びながら物語のモチーフとしての風格を漂わせていったり。
各章の主人公たちの身に起こるとある現象も、絵にするととても幻想的で綺麗な情景として浮かび上がります。
そうそう、この作品は幕間を除けば全五章で構成されていて、各章ではそれぞれ主人公が異なるのです。短編としても楽しめるのですが……
どちらかというと、立場の異なる星野百貨店の従業員たちがバトンタッチ形式で大きな物語をつないでいくような感じかな。
あとあと、各章のタイトルもいちいち素敵すぎるんです⭐︎ 簡単に紹介しますね。
章タイトル/役職・主人公
- 第一幕『空を泳ぐ鯨』/エレベーターガール・松浦いさな……彼女は小学校卒業頃、当時とても尊敬していた父親と離れ離れになってしまいます。オーケストラのコンミスとして日本へ遠征していたサクラとの出会いと関わりを通じて、彼女が見出した答えとは、、?
- 第二幕『シンデレラの階段』/百田靴店の店長・百田咲子……かつてはバンドのヴォーカルとして、芸能界へも足を踏み入れたことのある彼女の後悔と、新たな希望と、はじまりの物語。
- 第三幕『夏の木馬』/宝飾フロアの主・佐藤健悟……小さい頃、母親と訪れた星野百貨店の屋上遊園地に取り残されてしまうという、辛い過去もつロマンスグレーな老紳士。母親への想い、そして母親の真意が綴られます。。
- 第四幕『精霊の鏡』/別館二階の資料室の従業員・早乙女一花……絵を描くことが大好きだったかつての自分を捨て、容姿にも自身がもてず、星野百貨店の隅っこでなるべく目立たないように働く女性従業員。突如として資料室に現れた男性客との意外な繋がりとは、、?
- 終幕『百貨の魔法』/新人コンシェルジュ・芹沢結子……これまで星野百貨店にはなかった「コンシェルジュ」という役職に立ち、新人ながらも著しい奮闘を見せる、どこか不思議で愛らしい物語のキーパーソン。白い子猫とは別行動ながらも、共にすべての章にて登場を見せます。。
閉店が近いとも揶揄される星野百貨店で、立場に関係なく企業の理念を胸にお客様の前に立ちつづける彼ら。
彼らのもとへ小さな足音を立てて現れる白い子猫の正体とは、、? 芹沢結子という若きコンシェルジュとの関係はいったい、、?
大切な何かを願うこと。夢を信じること。頑張りつづけること。星野百貨店で働く従業員もお客様も、そして風早の住人も、ひとりひとりがそれぞれをきっと見守ってくれているから。
だから自身が抱いた想いを大切にしていれば、隣の人との想いと重なることがあるかもしれない。そうしたら物事は少しずつでもいい方向へ傾くのかもしれない。。
私はこの作品から、そんなメッセージを受け取りました。
若干抽象的な感じだけれど笑 子供の頃に読んだおとぎ話・童話から得られた優しい気持ちとどこか似ている気がします。今はこうやって言葉にできているだけましかな?←
現実のどこかにいそうな百貨店の従業員たちと不思議な世界観とのバランスの取れた、村山早紀さんならではの素敵な作品だと思います。
白い子猫が星野百貨店にもたらすミステリと奇跡を、ぜひとも味わってみてくださいね⭐︎
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