【書評】桜風堂ものがたり/村山早紀/PHP文芸文庫ーー人々の心に支えられた、田舎町の本屋さん

桜風堂ものがたり書影書評
※書影は版元ドットコム様より
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ーー言葉は耳に降りそそぐ。永遠の水の流れのように。

 今回ご紹介させていただく作品は、村山早紀・著『桜風堂ものがたり』になります。
 こちらは”桜風堂ものがたりシリーズ”の第一作目でして、その後、二作目『星をつなぐ手』→三作目『桜風堂夢ものがたり』と続きます。

 私が村山早紀さんの作品に抱くいちばんの印象は、やはり心理描写や情景描写に妥協がない点です。
 他作家さんには類を見ない程にその作中に綴られる、登場人物一人一人の心。そして、その心のいきさつ。もっというとその人の人生が、どの作品でもとても丁寧に繊細に描かれています。。

 その場に立つ人物の視点が即座に深く入り込んでくるため、その感情移入の中で読者は自然とその人に対して「こうなって欲しい・こうあって欲しい」、もしくはその人として「こうありたい」みたいな願いを見出してしまうのです。

 この作品の主要登場人物たちには、、

 「悲しい過去を背負っていても、それでも強く生きようとする人」
 「とても内省的で引っ込み思案だけれど、心の奥底に赤き情熱を宿している人」
 「勇ましく、他人のために一生懸命に振る舞えるけれど、本当は弱い部分も隠し持っている人」

 みたいな大まかな人物像はあるかもしれません。
 ただ、それぞれがこれまでに歩んで掴んできたものと、他者の言葉や行動とが干渉し合うことで、新しい意思とか決意みたいなものが幾度となく生まれていく、その様が鮮明に描かれています。
 その部分部分がその都度、私たち読者の抱いた”願い”に重なったとき、物語全体に大きな波が生まれて、登場人物たちと読者を巻き込んだ偉大な力が、この本に宿るのです。。

 この物語が描くのは、登場人物たちと読者が一体となって抱く”小さな願い”と、その願いのもとに培われる”小さな奇跡”なのです!

 物語の主な舞台は、村山早紀さんの作品ではおなじみの「風早」。そのシンボル・星野百貨店に入る銀河堂書店。それとそこからとても離れた場所、桜野町にある桜風堂書店です。
 主人公の月原一整つきはらいっせいと、2人のヒロイン卯佐美苑絵うさみそのえ三神渚沙みなみなぎさは銀河堂書店の書店員。この3人の視点と、物語のマスコットともいえる猫のアリスの可愛らしい視点が交錯しながら展開されていきます。

  • 月原一整……文庫担当。端正な顔立ちと物腰柔らかい立ち振る舞いから、影ではイケメン書店員と謳われていたり。埋もれそうな無名作をたちどころにヒットさせるという才能から「宝探しの月原」とも呼ばれています。正しいことを貫こうとする姿勢が素敵。だけどとある事情で、他人とは距離を置きがちなところも?
  • 宇佐美苑絵……児童書担当。おっとりしていて涙もろい、草花や絵が大好きな一整の後輩。一整に幾度となく助けられ、大好きな絵本に登場する王子様に一整を重ねてしまいます。普段はすごく内向的で大人しいけれど、大好きな人のためにとても一生懸命になれるところがとても愛らしいです。
  • 三神渚沙……文芸担当。苑絵の幼馴染みで、剣道の有段者です。馬上の姫君の如くいつも苑絵のことを優しく見守っています。人当たりもよく、メディアへの露出も多いアイドル書店員として、銀河堂書店を明るく支えていたり。突出した正義感と隠れた乙女心の揺れ動きが可愛いらしい人です。

 一整は、銀河堂書店で起こった悲劇的な事件をきっかけに、一人退職を決めてしまいます。一整も銀河堂の他書店員たちも、この退職には皆が深く心を痛めました。。
 一整が退職前に企てていた『四月の魚ポワソンダブリル』という作品の売り出しも、残された書店員たちに託される形に……。

 退職後、一整がいったん心を落ち着け、ふと思い立ったこと。それは、古くからのブログ仲間である「桜風堂さん」を尋ねてみようということでした。
 飼っているオウムの”船長”を引き連れて、いざ桜風堂書店のある桜野町へ……。

 私はこの作品を読んでいる最中はずっと、幸せな気持ちでジーンとウルウルが止まりませんでした。村山早紀さんの作品ではいつもこれです。。笑
 人の言葉も想いも、ある一つの小さな願いに乗って流れていき、小さな奇跡を巻き起こす。そんな温かい物語に、、

”涙は流れるかもしれない。けれども悲しい涙ではありません”

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