【書評】赤と青とエスキース/青山美智子/PHP研究所ーー芸術×ミステリ×奇跡のラブストーリー

赤と青とエスキース書評
※書影は版元ドットコム様より
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ーーエスキース。デッサンやスケッチなどと意味合いは似ているが、決定的に違うことがある。それを元にして、本番の作品を必ず完成させる。書き手にその意志があると言うこと。

 今回ご紹介させていただく作品は、青山美智子・著『赤と青とエスキース』になります。このシックにまとまったタイトルと表紙の感じが良きですよね♪
 とある一枚の絵画をめぐるラブストーリーでもあり、「エスキース」という一つの言葉にミステリな要素を含めた、秀逸でエレガントな感動作でした。

 私、この小説を読むまでは「エスキース」という言葉を知りませんでした。「デッサン」「スケッチ」との違いも含めて、ザックリと意味を書いてみますと、、

  • エスキース……本画に入る前の下絵全般を指すもので、使用する画材に特に制限のないもの。
  • デッサン……下絵にもなるけれど、それそのものが本画としての作品性をもつこともある、木炭・鉛筆などで描かれたもの。
  • スケッチ……とても大まかに短時間で描かれたデッサン。

とのことです。(専門家の方はどうか温かい目でみていてください……。)

 なので、エスキースではペインティング・ナイフも使えば絵具だって使います。本画に入る前段階で、あーでもないこーでもないと、最大限にイメージを膨らませる作業、またはそれでできあがったもの。それがエスキースなのです。

 それでは、この「エスキース」という言葉は、作中でどのような形で登場するのでしょうか。。私は、この作品全体がエスキースになっているんじゃないかなという解釈に至りました!ナントッ

 この作品は、プロローグとエピローグを除けば全4章で構成されていて、章タイトルやその本文の中で、「赤」と「青」か、またはそれらに関係する言葉がたびたび登場します。
 また、それぞれのお話は独立した色味での結末を迎えながらも、とある一枚の絵画をお互いの結び目とし、微々たる共通項を生み出しながら、読者の想像力におまかせするような形で展開されていきます。。

 私の読んでる最中のリアルな感覚を伝えるのなら、「あれ? これとさっきのって関係しているのかな? ま、いっか。。」くらいの感じが多かったです笑 もちろん「ああー、そういうこと!?」みたいに想像の及んだ事象もありました。
 つながるかつながらないかの絶妙なラインを読者へ提示している感じかな。読者へ、想像力を掻き立たせる作業を強いている、そんなエスキースな作品でした。(新語誕生:エスキースな作品)

 もう少し注意深く読んでいたら、はっきりとした外観が掴めていたのかもって思うと悔しいけれど、後で読み返してやりますよ!
 ミステリが得意な方にはぜひぜひおすすめです。。

 ”赤”と”青”と”エスキース”という言葉が、そのまま文章世界に落とし込まれた作品。タイトルありきの本文、本文ありきのタイトルといった出来ばえは歎美に堪えません。

 登場人物たちは、絵のモデル、グラフィックデザイナー、絵描き、額縁職人、漫画家などと、やっぱり絵に関わっている人が多い印象でした。
 なので、絵画業界その界隈での事情や雰囲気なども知れる、お仕事本みたいな面白さもあったり。
 各章でのそれらの登場人物たちの人間ドラマや、そこで描かれる「小さな奇跡」も、青山美智子さん作品らしいテイストにあふれています。
 立場による嘆きや葛藤もあれば、気づきと感謝もあって。ときには狂おしいほどの愛情も記されていたり。。

 作品の部分にも全体にも、こういった持ち味をもたらすことができるのが、青山美智子さんならではの手腕なのだと思います。
 また、青山美智子さんはけっこうハートフルストーリー全開の作品を手がけられるイメージがあったのですが、『赤と青とエスキース』という作品は、若干そういうものを控えめにした、スタイリッシュさや芸術性に比重のおかれたもののように、私は感じました。
 みなさんはどう感じるかな? それでは、最後までお読みいただき、ありがとうございました⭐︎

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