ーー遠く離れているわけではない。手を伸ばせば届く距離にいるのに、互いにふれようとしない人々を。互いに避けあって、声を掛けずに見て見ないふりをしている人々を、わたしはここからみているの。手を伸ばしても届かない距離まで、走って逃げてしまう、哀れな子達を。ここから見ているのよ
今回ご紹介させていただく作品は、相沢沙呼・著『マツリカ・マジョリカ』になります。資○堂の化粧品ブランドではありませんよ。。青春ミステリ小説の金字塔とも言える、米澤穂信さんの”古典部シリーズ”を彷彿とさせるような、ビターで、ときおり辛辣な部分も見せる作品です。
本作は”マツリカシリーズ”の第一作目。その後、二作目『マツリカ・マハリタ』→三作目『マツリカ・マトリョシカ』と続きます。
タイトルにもある「マツリカ」は、本作のヒロインの子が名乗っている名前です。毎日学校近くの廃墟ビルから、双眼鏡や望遠鏡で学校の様子を観測している謎多き女子。猫とトマトジュースが好きな女子。。
主人公である柴山祐希のことを「柴犬」と呼びつけ、まるで下僕のように扱う女王様気質。言葉ひとつをとっても、どこか達観した境地から語りかけてくるような、ミステリアスさを前面に押し出したキャラクターです。謎・謎・謎です!
推理スタンスはというと、”古典部シリーズ”の主人公・折木奉太郎と同じく安楽椅子探偵。推理力も、彼に匹敵すると言っていい程です。
柴犬こと柴山祐希が集めた断片的な情報や、柴犬を望遠鏡で監視しつつ自身でも不足部分の情報をいつのまにかサラッと入手していて、即座につじつまを形成してしまう場面。淡々としているけれど、華麗な光景でもあって、それはまさに妖艶に舞う薔薇の花びらの如しです。
この作品も基本は、”人が死なないミステリ”なので、私みたくショッキングな場面が苦手な方でも安心して読める作品だと思います。
扱っている事件は、「マジョルカ」の時点ではまだ、学校の七不思議とか怪奇現象とか文化祭での窃盗事件とか「ザ・学園ミステリ」といった感じで、古典部シリーズに重なる部分がとても多く見られるのですが、決定的な違いも存在します。
古典部シリーズでは、事件の解決とともにけっこう胸を撫で下ろすような、なんとなく温かい気持ちで終わることが多いのですが、マツリカシリーズだと後に引く苦さがけっこうあったり、辛辣で胸が苦しくなるような描写もあったり。。
読後感でいえば米澤穂信さんの”季節シリーズ”の方に近いものになるのかなあとか。

あと私的には、主人公の柴山祐希くんに感情移入するのが大部分において難しかったです。というのも、状況が特殊すぎて笑
毎日廃墟ビルから学校を観測している女王様に遜って、下僕のように仕事をする陰キャの男子。そしてたびたび見せるむっつりな心理描写。うーん、あまり入り込めませんでした。。思春期の男子ってこんな感じなのかな?
もちろん、台詞の中には部分的に共感できる言葉もあったりはしたけれど、共感と反感のバランスでいえば、柴山祐希くんに対しては反感が勝ってしまっていたような気がします。ゴメンネ
それでもやっぱり、事件解決へ向かう工程の美しさや推理場面の爽快さは見ものでした。また、柴山祐希くんには共感できないと言ってしまったばかりですけど、こういう振り切った人物設定ってけっこう多くの作品で見られることだとも思うのです。
「陰キャでむっつりな下僕」というのも、キャラクターとしてはぜんぜんありなんですよね。うーん、神の視点で書いてくれていたらもう少し読みやすかったのかも?
古典部シリーズなどの青春ミステリものが好きな方。「私、気になります! マツリカさんのことが、気になるんです!」という方に、ぜひぜひおすすめです⭐︎
それでは、最後までお読みいただき、ありがとうございました⭐︎
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