【書評】言の葉は、残りて/佐藤雫/集英社文庫ーーそれでも妻を愛しつづけた鎌倉の将軍

書評
※書影は版元ドットコム様より
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ーー私は一人の女人としてあなた様を恋い慕いたかった!
ーーそれでもいい、私はみだいでなくてはならんのだ

 今回ご紹介させていただく作品は佐藤雫・著の『言の葉は、残りて』になります。鎌倉幕府三代将軍である源実朝と公家の姫様である信子の、出会いからとある結末までを綴った儚くも尊い歴史恋愛小説です。

 ”第32回小説すばる新人賞”に輝いたこちらの作品を携え、佐藤雫さんは作家デビューを果たしました。鎌倉時代となると、現代を生きる私達では実際のところを知る余地はないけれど、きっとその時代を生きた人々だって愛する人と楽しい時間を過ごし、切実に愛を求め支えあい生き抜いたのだと、この作品に込められた想いを、私はそのように受け取りました。

 私達が生活する現代では(特に日本では)、普通に生活しているだけだと、そんな「生き抜く」だなんて痛切に望み抱く瞬間はそう多くはないかもしれません。
 誰かに常に命を狙われているわけでも、食べる物がひっ迫しているわけでもありません。でも、この『言の葉は、残りて』で描かれる鎌倉時代とは、武士の時代になってからまだ間もない、誰が覇権を手にしてもおかしくないし謀反だって頻繁に起こるし、そんな不安定な時代でもありました。

 鎌倉幕府の初代・二代・三代将軍は源頼朝をはじめとする源氏が受けもっておりましたが、その影には北条氏が潜んでおりました。北条は、後に鎌倉幕府の執権の地位にまで上り詰めるわけなのですが、作中ではその謀略の一端も色濃く描かれています。

 実朝と信子はそんな時代の中で若き日(実朝13歳、信子12歳の頃)に出会い、朝廷と幕府の政略や北条の謀略に巻き込まれ翻弄されながらも、お互いをただ純粋に愛し合い、時代に抗い続けるのです。言の葉の力によって。

 ふたりは出会ってから、和歌を絆に関係を深めて行きます。初めは公家の出の信子が実朝に教えるような形でした。次第に片方がふと詠みあげた和歌に対し、もう一方が返歌をするなど、とても温かく微笑ましいひとときが描かれたりもします。
 そして実朝は藤原定家に師事することで和歌の技量をより深めていくのです。実朝が生前に残した和歌を集めた『金槐和歌集』という和歌集も存在するそうですよ。”金槐”は”鎌倉の大臣”の意味とのことです。

 北条の止まない謀略の最中、ふたりが彩る愛に満ちた輝かしい瞬間は、読んでいて胸が震える思いでした。なにせ12歳13歳の子供が成長して、大人となって、そしておわりまで、お互いを信じ愛を貫いたんです。
 実朝は側室さえ持たなかったそうです。この時代にも、奥さんを一途に愛しつづけた将軍様がいたのかなって、とても嬉しくて、読みながらウルウルでした。。

 源実朝って、初代将軍の源頼朝や源氏の中でも戦の天才と言わしめた源義経(『鎌倉殿の13人』という大河ドラマで菅田将暉くんが演じているみたいですね⭐︎観てみようかな。。)と比べると、教科書ではあまり説明も無いし、どういう人物なのかあんまり分かっていなかったんですよね。
 かと言って、そこまで積極的に調べる機会もなくという感じでもあって。
 でも「武力ではなく言の葉の力で世を治めようとした将軍」って、なんかすごく熱くてかっこいいなって思います。
 源実朝にスポットライトを当ててくださった著者の佐藤雫さんと『言の葉は、残りて』には感謝しかありません。ではでは、最後までお読みいただきありがとうございました(b゜v`*)

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